2007年08月30日

「両手いっぱいの花束…C」

服を完成させるため、
私は休みをたくさん取らなければならなくなったし
そろそろ服飾の勉強になるような職種のアルバイトを
始めたくなっていたので、
8月いっぱいで、永い間お世話になったレストランのアルバイトを辞めた

服が完成したとき、私はU君に、住んでいたアパートに来てもらった
服を一式着てもらい、確認がしたかったのである
U君が来たのは、仕事の終わった夜の9時過ぎだった
ショーのために、大きくデフォルメした服に仕上げたためか
彼は、初めて着る服の感覚に驚き、興奮していた

「すごい!こんなのが仕上がったんや・・・。
僕もうれしい!それにこれ着てると、
なんだか体が大きくなったみたいで気持ちがいい。」

U君は、服を着たまま、M町の真っ暗な狭い路地の南北を、
走りながら行ったり来たりし、
声を上げながら、はしゃいでいた・・・

「あんまり走らないでね。静かにしなさい。」

そうたしなめてはみたけれど、
無邪気に喜んでいるU君の姿を見ているのが楽しかった
こんなに喜んでくれるのだから、
本番のショーに招待してあげればよかったのだけれど、
ショーにはEを誘っていた

Eに対するU君の思いも知っていたし、
U君の私に対する憧れのような気持ちや、
健康な少年なら誰でも持つ、
目覚めたばかりの未知の欲望にも気付いていた

Eと一緒にいる姿をU君に見せて、傷つけたくはなかったし、
何も知らないでいるEの姿を、U君に見せたくはなかった
二人とも、私の大切な人・・・

そして何より、EとU君が、私を介して同じ場所にいることを
想像したくはなかったのだ
私はU君といると、自分自身の中にある汚くて狡い女の部分と、
身勝手な大人であることを認めなければならなかった
そして、そのことが、私自身をも傷つけていた・・・

「お店の人達、皆、元気にしているの?」
「うん。Tさんはあいかわらずだし、マネージャーは・・・。」

と、しばらくは懐かしい話が尽きなかった
頬を高潮させた嬉しそうなU君の顔は、
やはり変わらずに、無邪気な少年のままだった
でも、私に話をすること以外に、
U君が何を微かに期待しここに来たのか、
それは私にもわかっていた

でも、それを口にすることはできなかったし、
気付かない振りをしなければならなかった・・・

「もう遅いから、そろそろ帰らないとね。」
「・・・うん・・・。帰るよ・・・。
母さんにも、また叱られるし・・・。」

風船がしぼむように萎えてゆくU君の感情は、
彼がいくら取り繕って平静を装っても、明らかだった
私はその一部始終を、心の中で密かに、でも細やかに観察した
自分を慕ってくれる純粋で美しい少年の哀しみは、
おなじく私の哀しみであり、苦しみでもあり、
そしてまた、別の残酷な心を持つ私の、
何よりの至福でもあったのである・・・

彼はそんな私の思いには全く気付かず、
名残りを断ち切るように、元気よく外に飛び出していった

「気をつけて帰りなさいよ。」
「うん!ありがとう。」

U君は、あれから原付を買ったのだ
必要以上にエンジンをふかし、爆音を立てて走ってゆく後姿
U君のどんな表情も動作も、私には眩しくて、
その余りある若さが煩わしくもあり、でもやはり愛しくて、苦しかった

〜あの子とは、いつか本当に別れなければならない〜

そんなことを思いながら、私は遠く離れてゆくエンジンの音を聞いていた
空を見上げると、黄色く大きな月が出ていた
秋の始まりを告げる透明な風がそよいでいた・・・
                  続く・・・



posted by マロニエのこみち・・・。 at 06:22| Comment(6) | TrackBack(0) | 小説風エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マロニエ殿

拙者も当時今は無き「トーハツ」というメーカーの単車に乗って先生の下宿に通っていた。勿論、無免許じゃった。

単車は中学2年生から乗り回していて、結構ハイテクな乗り方をしていたのじゃよ

帰ることを諭されて帰ったUちゃん。
昂ぶっていた心?が萎えたとのことじゃが、それの繰り返しで「男」になってゆくものじゃよ

拙者の場合、フィアンセが来ている時は出入り禁止じゃった。
辛かったのぉ

遅い出社じゃがこれから仕事じゃ
デワデワ
Posted by 克舟 at 2007年08月30日 10:46
これは、いいんじゃないですか。ほんと。
才能ありますよ。お世辞ではなくて。
私小説にありがちな、筆者と主人公との混乱も
ないですし、ちゃんと距離をとっていますし。
文章も瑞々しくて読む進みやすいです。
失礼ながら、マロニエのこみち・・・。さまの
積み重ねてきた年月の重みが文体を包みこんでいる
ようで、深みを感じます。

本格的にお書きになられたら如何でしょうか?

やはり、御職業柄でしょうか、感性が研ぎ澄まされているのですね。
Posted by dawase86 at 2007年08月30日 22:56
青春の思い出箱を開けてしまいました。
キラキラしたガラクタがいっぱい入っていました。
Posted by たっくん at 2007年08月30日 23:09
克舟さん

こんばんは♪
>勿論、無免許じゃった。
いきなり笑わせて頂きました・・・(涙
>単車は中学2年生から乗り回していて、結構ハイテクな乗り方をしていたのじゃよ
地元で『ぶいぶいいわして』おられた可愛いボクちゃんのお姿が目に浮かぶようです^^
>フィアンセが来ている時は出入り禁止じゃった。
あの〜・・・何回くらい通われたのでしょうか・・・
こんどは、歌に引き続き、師匠の私小説をぜひ拝読させて頂きたいものです♪
お忙しい中、いつもありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 00:40
dawase86さん

こんばんは
いえいえ・・お恥ずかしい褒め殺しのお言葉、感謝です
>積み重ねてきた年月の重み
と、体の重みだけはそれなりにございます・・(涙
自分の力量はわかっているつもりなので
本格的になどと考えず、これからも時折厚かましくも、
こちらで細々とUPさせていただければと存じます・・・(恥
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 00:45
たっくんさん

こんばんは
お〜〜いいっすね〜〜
たっくんさんの青春の思い出の小箱の中
ぜひぜひ拝見したいものです♪
たっくんさんも、今度ぜひとも、私小説を発表してくださいね♪
みんなでやれば、こわくない・・(笑
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 00:49
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