2007年08月31日

「両手いっぱいの花束…D」

ショーは無事終了し、私は初めてのコンテストで入賞した
絵の先生のご紹介により、
デザイン協会のメンバーでもある先輩のブティックで、
アルバイトをさせていただくことも決まった

めずらしく、何もない昼さがり・・・
久しぶりに静かな秋の陽をガラス越しに浴びながら、
そして時折、窓の隙間から漏れてくる
物憂げな金木犀の甘い香りを楽しみながら
私は一人、アパートの二階の自分の部屋で、
特に何をするでもなく過ごしていた

近所の置屋さんからは、芸妓さんの練習なのか、
三味線の音がのどかに聴こえてくる・・・

そんなときだった
階下に車が止まり、玄関の扉を叩く音がしたのは・・・

「●●さ〜ん、お届け物ですよ〜」

わたし?・・・なんだろう?
階段を降り、扉を開けると、目の前に現れたのは、
外で立っている男性の上半身がすっぽりと隠れてしまうほどの
大きな大きな花束だった・・・

受け取ってカードを見ると、
『おめでとう!』と一言のメッセージが・・・

それは、U君からの花束だったのである
両手を広げても余りそうなほどの、
本当に大きな大きな花束・・・

その頃の私は、殺風景な部屋に住んでいて、
こんなにたくさんの花を生ける花瓶など持ってはいなかったので、
洗濯用のバケツに水を張り、その花束を投げ入れてみた・・・

カーネーション、カスミソウ、菊、百合、薔薇・・・

花の種類はとりとめがなく、
色合いも、近頃できたお洒落な花屋さんのように
気が利いたものではなかったけれど、
そのとりとめのなさや見当違いな程の大きさが、
いかにも不慣れな少年が選んだ
初めての花束だということを表していた

〜あの子・・・こんなことにお金を使って・・・〜

U君は、高校の放課後は、毎日、レストランで働いていた
学校や自宅のあるD町から、
レストランのある四条河原町は決して近くない
でも土曜日の昼からも、そして日曜も休むことなく、
ほとんどの時間をアルバイトに費やしていたのである

「疲れないの?遊びたくならないの?」
「うん・・大丈夫。それよりも、お金が欲しいんだ。」

U君は、いつもそう言って笑っていた
その表情に卑屈なところは微塵もなくて、
ストレートに返ってくる言葉が気持ちよかった

小さい頃から母親の姿を見てきたから、
働くことは当たり前のことだったのか・・
あるいは彼は、母親の認めたくない女の部分や、
自分に対する思いが重すぎて、
早く実家から自立したいと思っているのかもしれなかった
彼のそんなある種、達観したような醒めた部分や、
時折、聞かせてくれた私生活の一部などは
一見もっと成熟したように見える同世代の男の子たちよりも、
本当はずっと大人だったのである

花屋を見つけた彼が、意を決したように中に入り、
照れ臭さを誤魔化すために、素っ気無く無愛想な顔をして
手当たり次第に花を選んでいる、ぎこちない姿を思い描いた
そして、花屋さんを出た後の、茶目っ気のあるいつもの顔も・・・

そしてその後、ぼんやりとU君のことを考えていたら、
ふとした瞬間に垣間見せる
横顔に潜む寂しげな影を思い出した
苦しさや哀しさを打ち明ける人のいない、
膝を抱いた孤独な少年の姿を・・・

私は、U君を、ショーに呼んであげなかったことを・・・
そして自分でも気付かぬうちに、
彼の中に入り込んでしまった自分自身を激しく後悔した

窓の外の金木犀の香りと混ざり合い、小さな部屋に漂っている
むせ返るような花の匂いが苦しかった・・・

                ・・・続く



posted by マロニエのこみち・・・。 at 00:04| Comment(10) | TrackBack(0) | 小説風エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マロニエのこみちさん、こんばんは。
完結ですね!
十二分に楽しませていただきました^^
マロニエさんのことをHPやブログを通じて多少知ってるつもりなので、よけい面白かったのかも知れませんが、それを割り引いても今読んでる小説よりズ〜ッと面白かったですよ。
マロニエさんらしく昭和の色濃く、自分の若かった頃の思い出やら経験やらを重ね合わせて、少々甘酸っぱくも内に潜めたままであったその頃の記憶にしばし遊ぶことができ、堪能できたのは感謝、感謝の気持ちです。

最近は携帯小説なるジャンルも拡大していますし、マロニエさんの才能の煌めきをぜひ大きな輝きとしてほしいものです。
その時は応援させてもらいますよってに!!○o。(^∪^*)
Posted by sekisindho at 2007年08月31日 00:26
sekisindhoさん

こんばんは
あのお・・・せきさま
実はまだ完結していないのです
まだあと2回引っ張るつもりなのですが
もうよしたほうがよろしいでしょうか・・・(笑

>少々甘酸っぱくも内に潜めたままであったその頃の記憶にしばし遊ぶことができ
えへ・・
どんな記憶だったのでしょうか
そこのところがヒジョウに気になります
ぜひこんどは、sekisindhoさんの私小説を拝読してみたいものでございます♪
ちなみにこれは、全くの妄想小説でございますよ・・(笑
ご声援、ありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 00:34
こんにちわ^^

小説、ドキドキしながら楽しく読ませて頂いています。

甘酸っぱいですねぇ...

私も若いころ、小説に近い経験があり、そんなことを思い出しながら読んでいます。
年下の男の子の純粋な部分を目の当たりにしたときの罪悪感、すごくわかりました。

真っ白すぎて、不用意にふれると壊れてしまいそうな心を傷つけてしまったとき、女の業というか、自分の非情さに、自分で傷ついていた。
若かったんだなぁ...

続き、楽しみにしています。
Posted by メリー  at 2007年08月31日 10:44
ええと。
ここですか、事実に基づいたノンフィクション・エッセイというのは(`∀´)
Uくんの気持ち、よく分かるなぁ。
大人の女性は魔物だよ。
若い頃も、今も、この考えは変わりませんです、ハイ。
Posted by 107 at 2007年08月31日 19:03
はじめまして(ペコリ

あの・・・
U君には二宮和也君ではだめですか?
Eさんには豊川悦司さんで・・・
「私」はフブキジュンさん??
ちょっと時代がずれてしまうようなので
松たか子さんでいきませんか?                              
おじゃましました。              
Posted by ぐうぐうがんば at 2007年08月31日 20:43
マロニエのこみちさん、再び。
大変失礼しました。まだ続くだったのですねm(;∇;)m
確か私がコメント書いてるときは
>・・・続く
の文字はなかったと思ったのですが、最近眼も悪くなったみたいですよ(◎。◎;)
完結後にコメント入れようと思ってたのに、とんだことでした。
あと2回楽しみにしておりますよ^^
Posted by sekisindho at 2007年08月31日 22:57
メリーさん

こんばんは
わ!経験者現る・・・♪
嬉しいコメントです!励みになります!

そうですよね・・
この20歳を境にした前後の年頃の、ほんの少しの差はかなり大きいですものね
思っているよりもずっとずっと子どもだったり繊細だったり・・
私が18,9の頃は、男性よりも同性の少し年上の女の人に
ものすごく憧れていて、怖くて近づくこともできませんでした
あの頃の感覚・・・
時々思い出さないといけませんよね
でないとおばはん街道まっしぐらになってしまいそうで・・・(^^;
残り後2話です
拙文ですが、どうかお付き合いくださいませ
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 23:18
107さん

こんばんは
だからぁ・・・ちがいますってば・・(笑
>大人の女性は魔物だよ。
どんなひどい目にあわれたのか、ぜひこんど、記事でUPしてくださいね♪
それを資料に、続編を書いてみたい・・(笑
私は違いますよ
だってなんといっても、菩薩ですから〜〜(笑
ありがとうございます〜〜♪

Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 23:21
ぐうぐうがんばさん

こんばんは
はじめまして♪

配役、素晴らしい〜〜♪!!
これって、完璧じゃないですか?(ワクワク☆
好みから言うと、Uクンは、瑛太さんなんですが
二宮さんのほうが似合いそうですね!
風吹ジュンさんは大好きです
25年前に戻っていただいたら完璧です(^^v
豊川さんは、文句のつけようがなし
後、Uクンのおかんに、萬田久子さんか、高島礼子さんになっていただいたら
これでドラマ化は可能ですね(笑
楽しいコメントをありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 23:27
sekisindhoさん

こんばんは
す、すみません・・わざわざどうも・・・(^^;
そうなんですよ〜〜
UPした後、こちょこちょと修正をかけておりまして・・・
続くが抜けているのも、そのときに気付きました(汗
そうなんです・・
まだしつこく二回引っ張りますので、
どうかお付き合いの程、宜しくお願いいたします・・・m(_ _)m
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月31日 23:32
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