2007年09月02日

「両手いっぱいの花束…F」

U君がアパートに来ていつも私に言っていたこと・・・

「●●さん、早くもっと綺麗なところに引っ越してください。
こんなボロアパート、●●さんには似合わないから・・・」

そう・・・
あのボロアパートの立ち退きが、
彼が時々来るようになってから、まもなく決まったのである
老朽化が著しかったので、
家主さんは更地にして駐車場を作ることに決めたのだった
新しく越した部屋は、
バイト先のブティックの奥さんが、紹介してくださった

U君のイメージする綺麗な部屋に
当てはまったのかどうかはわからないけれど
今度は文化アパートではなくて、
五条に近い酒問屋の倉庫の3階にあり、
内風呂はなかったけれど、今のような共同トイレではなくて
建物自体も鉄筋だったし、今までの6畳に、
3畳の台所一部屋が新しく増えた
商店街にも近くなり、明るくて、風通しのよい部屋だった

あの後、U君は、いったいいつあのアパートを訪れたのだろう・・・
私に愛想を尽かし、あれ以来、来ることもなかったならば
それはそれで・・・否、それでよかったのだ
私はそうするために、U君に冷たくしたのだから・・・

でも、彼は多分、来ただろう・・・
うれしそうに、セーターを着て、いつもよりもお洒落をして
新しく買った靴などを履き、訪れてきたのかもしれなかった

アパートは、まだ残っていたのだろうか
それとも、更地になった後だったろうか

この引越しは、青天の霹靂ではあったけれど、
私は彼に、さよならを告げなければならないという
一番厄介な事柄を、しなくても済んだのである
残酷で狡い方法ではあったけれど、
本気で断ち切る方法は、それ以外に浮かばなかった・・・

〜私は、あなたがもっと大人になって、
大好きなただ一人の人に出会い
その彼女を愛することの喜びを知ったときの
あなたの姿が見てみたいの〜

U君と過ごした夏の夜、私は彼にこう言った

そう・・・
彼の愛の対象は、私でなくてもよかったのである
私ではない誰か・・・
可憐で彼のことを心から愛してくれる可愛い女性
そんな人に彼がめぐり合い、幸せそうに街を歩いている姿に
私はふと、出会ってみたかったのだ
声もかけず、ただ通り過ぎるだけでよかった・・・

無垢で、繊細な心を持った少年が青年になり
愛と優しさと苦しみを知って
逞しく成長したその姿を、私は見たかったのである

あの時、不思議そうな目をして、私をじっと見ていた彼は、
今もこの言葉を覚えているだろうか
何も言わずに行ってしまった私のことを、
彼は恨んでいるだろうか
それとも、もう、私のことも、あの頃の出来事も、
とっくに忘れてしまったろうか

その後、U君が京都でも有数の、高名な老舗企業に就職したと、
かつての同僚から知り、安堵していたのだけれど
高卒では現場の仕事で辛かったのか、
2年も経たないうちに辞めてしまい、
また元のレストランに、戻ってきたという噂を聞いた

あれからもう20年以上が過ぎた
バブルの波に呑みこまれ、
閉店を余儀なくされた老舗店が、京都にもたくさん出たけれど
あのレストラン・Kも、そのうちのひとつになってしまった
建物だけは、別の業者が譲り受け、
今も少し形を変えて残っているけれど
気のいい同僚たちやマネージャーやシェフの人達
そしてU君の行方がどうなったのか、私は知らない

彼は今、愛する人のそばにいるのだろうか・・・
可愛い子どもにも恵まれたろうか・・・
安住できる居場所を見つけ、元気に仕事をしているだろうか・・・

もし、街ですれ違っていたとしても、
もしかしたらお互いに気付くこともなく
通り過ぎてしまったのかもしれない

でも、私は・・・
あんな別れ方しかできなかったあの無邪気で淋しがり屋の少年を、
私を慕ってくれたU君を、本当は今でも愛している

そう・・・
いつも私を驚かせてくれた愛しいあの少年を・・・
未完成な美しい肢体を・・・

そして私が思い描いていた未知の青年に、
私はまだ恋をしていて、
あのとき完結していなかったものが、
むせるような花束や、金木犀の甘い香りや、秋の風に触れるたびに
今頃になってくすぶりだし、私を苦しめるのである・・・
         
                  ・・・完

****************************

この物語は、妄想癖のある作者によるフィクションで、
人物その他は実在せず、事実とは異なりますので、
ご了承願いますm(_ _)m



posted by マロニエのこみち・・・。 at 04:32| Comment(20) | TrackBack(0) | 小説風エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ついに完結ですね。

あまやかでせつなくて美しい・・・・。
このお話のエンドロールには、「Fin」という言葉こそが相応しいと思いました。

ぜひぜひ瑛太くんで、こんな映画が観たい!

素敵なお話ありがとうございました。



Posted by みどり at 2007年09月02日 07:16
いまの●●さん(勝手に花岡夕子)・・・余貴美子
20年前の●●さん・・・瀬戸朝香
U君(勝手に上原慎太)・・・瑛太

で、どうでしょう?

2時間ドラマのプレゼント、有難うございました。
頭の中で風景がしっかり妄想(想像)できましたよ〜。
Posted by ふくわうち at 2007年09月02日 09:46
追加
Eさん(勝手に江島隆生)・・・大沢たかお
でお願いします。えへ・・・。
Posted by ふくわうち at 2007年09月02日 09:56
みどりさん

おはようございます
長々と駄作にお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
それにしても、瑛太くん人気はすごいですね!
でもいいですよね〜〜(ハート☆
いつもありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月02日 10:50
ふくわうちさん

おはようございます
ほお〜〜〜
これもなかなかすっきりモダンでいい感じですね
瀬戸さんと余さん、確かに・・・!
お名前まで・・・
ふくわうちさんも、こういう企画が実は好きなのですね♪
候補が集まっておりますので、次回の記事に反映させていただきたいと存じます(笑
ありがとうございます!!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月02日 10:53
ふたたびふくわうちさん

>Eさん(勝手に江島隆生)・・・大沢たかお
はいはい・・了解いたしました〜♪(笑
ありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月02日 10:54
瑛太くん・・・ぴったりですね!!
それ以外の配役は考えられないです

妄想じゃないと、勝手に妄想したりして・・・^m^

Posted by noobooboo at 2007年09月02日 11:57
noobooboo さん

こんにちは
ほお〜〜nooboobooさんも、瑛太に一票・・・!
こんなに人気があったなんて、実際のところ驚いています!
>妄想じゃないと、勝手に妄想したりして・・・^m^
では、そうしておいてください
私もそのほうが幸せを感じますから・・・(笑
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月02日 13:11
別れるの、切れるの、といったら大変なことに・・・
スーッといなくなって、
しかもアパートの後が更地になってしまう。
彼のためには最善の別れ方だったでしょうね。

その余韻が20年も続いている〜〜
読後の余韻も続きますね〜

なかなか見事なもので『妄想』などではありません。
考え抜いた構成ですね。
次作も期待しています。

Posted by capucino at 2007年09月02日 21:15
存分に堪能させていただきました。
構成・表現ともに素晴らしかったです。
映像ではなく文章での表現がぴったし。
視点がぶれずに、しっかりと定まっていたのは
お見事!

次作も期待しています。
Posted by dawase86 at 2007年09月02日 23:05
マロニエのこみちさん、こんばんわ〜♪

これからの季節の先取りのように
淡いような・・・清々しいような・・・すっかり楽しませて頂きました〜!
自分も次回作を期待しま〜す(笑)
Posted by deep at 2007年09月02日 23:39
マロニエ殿

≪この物語は、妄想癖のある作者によるフィクションで、
人物その他は実在せず、事実とは異なりますので、
ご了承願いますm(_ _)m≫

毎回、この言葉を聞けば聞くほど
こりゃ、ノンフィクションだとバレバレじゃな

妄想であろうが、本当の話しであろうが
拙者の若かりし頃を思い出させてくれた
ありがたかったのぅ

拙者の場合、
一昨年、40年ぶりにばったり会ったぞな
60代半ばじゃったが、まだまだ女じゃった
も、勿論ナンもなかったぞ

拙者とは丁度10歳離れておったからのぅ
学校の先生と結婚されても教職は続けておられて
校長までやったそうじゃ

拙者はその先生のお陰で目覚めさせられ
困ったもんじゃった
この年になっても治らんのじゃ
まだ目覚めておる

Uちゃんもきっとそうじゃろ
イヤイヤ、これは妄想じゃよ
Posted by 克舟 at 2007年09月03日 06:32
妄想、おつかれさまです^^
とても若返ってしまいましたよ〜。

Posted by たっくん at 2007年09月03日 10:14
マロニエさんらしい、甘く苦い妄想の世界、楽しませていただきました。
妄想妄想ということなので、そうしておきましょう(笑
20代初めって、女性は年下の男の子に、男は年上の女性に引力を持つ年頃なのでしょうか。

ともあれご完結、おめでとうございます。
Posted by 107 at 2007年09月03日 13:02
capucinoさん

こんばんは
永らくのお付き合い、ありがとうございました
励ましのお言葉感謝感謝です
次回作はいつになるかわかりませんけど
結構面白かったので、また気が向いたら書いてみます
capucinoさんも、ぜひぜひご挑戦くださいませ♪
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 19:52
dawase86さん

こんばんは
駄作にお付き合いいただきましてありがとうございました
でも、上手に褒めていただいたので、調子に乗って完成できました(笑
dawase86さんもぜひぜひ!
あの貴重な受験の経験を生かして、【坊ちゃん大賞】へのご応募など如何でしょうか♪
いつもありがとうございます!

Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 19:56
deep さん

こんばんは♪
deep さんも、励ましのお言葉、いつもおおきにでございます♪
ホントはもっと濃い作品も書きたかったりするのですけど
ブログ上では限界がありますね(爆笑
ありがとうございます!♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 19:59
克舟さん

こんばんは♪

>も、勿論ナンもなかったぞ
『も』が、怪しいですね(笑

>教職は続けておられて校長までやったそうじゃ
校長がそんなことをしてはいけませんね(爆笑

>この年になっても治らんのじゃ
まだ目覚めておる
何といっても、盛春真っ盛りですから〜〜♪

それにしても、師匠の貴重な体験をうかがうことができ
私も大変勉強になりました!
U君にとっては、いい経験だったのか、悪いことだったのか・・・
『妄想』(笑)の物語ながら、私もこのことをつい考えてしまうこの頃です・・・
永らくのお付き合い、ありがとうございました♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 20:09
たっくんさん

こんばんは
おなじく私も若返りました〜〜♪☆◆♪
ありがとうございます!!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 20:10
107さん

こんばんは
>20代初めって、女性は年下の男の子に、男は年上の女性に引力を持つ年頃なのでしょうか。

20代初めでなくても、年下の男の子は好きですよ〜〜♪
そんな私を、このところ、婆さんはおばはんと呼びますが、
小柳ルミ子さん、秋吉久美子さんを尊敬しております(笑
ありがとうございます〜♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月03日 20:14
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