2007年09月16日

「読書の秋・・・私の好きな一冊」

ところで、
『貴方のイメージする【美しい日本】とは・・・』
と訊かれたら、私は思い浮かべる一冊の本がある

それは、鈴木三重吉【桑の実】

大正2年に、【国民新聞】の連載小説として発表された本である
鈴木三重吉・・と聞けば、
童話童謡雑誌【赤い鳥】の創刊をした童話作家・・・
と言うことなら、ご存知の方は多いと思う
でも、児童文学を手がける前に、何冊かの小説の秀作を残していて
童話に携わるようになったのは、
大正5年(35歳)に長女が生まれたからだと言う説が一般的だけれど、
その他にも、小説が書けなくなったからだと言う説などもある

私がこの本に出会ったのも、高校時代
今までで、一番本を読んだと思う乱読の時代である

剣道の部活の前に毎日図書館に通い、純文学に親しみ、
薪で風呂焚きをしながら借りてきた本を読み、
レコードやラジオ放送を聴きながら美術展の絵を描き、
ラジオ番組には
【アルルの女】や【マルセリーノの歌】をリクエストし
リスナーの歌コーナーに応募して歌った歌が
ペギー葉山さんの【学生時代】という
当時から、かなり大正時代がかったレトロ志向の私に、
強いインパクトを与えた本だった

取り立てて、なんの華やかな展開もない内容の本である
でも、つつましく美しく、
そして洋の文化を少しずつ取り入れ始めていた、
明治後半から大正初期あたりの日本の姿が、
静かな筆で記されている

最初、好きな漱石に雰囲気が似ていると思ったけれど
年表を見てみたら、それもそのはず、
漱石は帝国大学の講師であり、
鈴木三重吉を小説家として推薦した恩師だった

鈴木三重吉の作品について、
【赤い蝋燭と人魚】の代表作などで知られ、
【日本のアンデルセン】と評される小川未明氏は、

「幽遠な人生の寂しさを持った絵のような美しい芸術を描いた人」

と称えている
私が今持っているのは、筑摩書房の【現代日本文学全集】に
寺田寅彦、森田草平と一緒に収められているハードカバーだけれど
旧漢字や旧かな文字で綴られていて、多少読みにくさはあるものの
レトロな雰囲気を更にかもし出していて楽しい

鈴木三重吉については、色んな逸話がある
漱石と同じように、若い頃に胃病と神経衰弱を患っている
二人の違いが面白い
全集の解説から、掻い摘んで抜粋すると

漱石は、道理に生きた人で、三重吉は感情に生きた人
漱石は、自分の淋しさが、酒や女で癒されるほど
浅い淋しさでないことを知っている故に、
酒や女に走ることはなかったが
三重吉はそういうことを知っていながら、
やっぱりそういうものに走り、そういうものによって、
自分の淋しさを麻痺させようとし、更に深刻なものとなって
更にそれらのものの中にのめりこんで行くタイプの人


だそうである
三重吉については、漱石の【文鳥】に実名で出てくる

文鳥を飼う気になったのは、
三重吉に勧められたから・・と言う設定
漱石は、三重吉が書いた【三月七日】という作品を読んでいて、
鳥は「千代、千代と鳴くらしい」とイメージしている
【三月七日】は、明治40年【千代紙】という題で出版されていて、
題を付けたのは漱石である
漱石は、千代というのは、
三重吉の惚れていた女の名前かもしれないと推測をする・・・


ここにも、【千代】が出てくる(笑
三重吉の性格も、かなり個性的で、
漱石に輪をかけて気難しかったようで、
かなりの二面性を持った人だったらしい
たとえば、

清濁併せ呑む親分肌のようなものを持っているかと思うと、
箸の上げ下げにまでも、小言を言わなければ気のすまない
神経質なところを持ち
美しいファンタジーの反面、
本能的なものを病的に示そうとする醜さを持っていた


など・・・
ちなみに、三重吉は広島の出身で、
原爆ドームの近くに文学碑があります
故郷や古い友人、そして何気ない雑草のような草花を、
こよなく愛した人情深い人でもあったようです

文学全集に納められている【桑の実】の
すぐ後ろに納められている花について書いた短文が、
あまりにも美しく、また私とあまりにも趣味が似ていて驚きます

そういう人の描くこの【桑の実】に出てくる芸術家の男性と
その身の回りの世話をする女性の日常の話・・・

私はこの本を読むと、いつもあの初夏の頃の、
田んぼを撫でる爽やかな風の気配を感じます・・・
美しい日本を描くことのできるお薦めの一冊です

 

 




posted by マロニエのこみち・・・。 at 08:09| Comment(10) | TrackBack(0) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。
ご飯を食べ終わったら、ゆっくり↓のコメントを入れにいこうと思ったら、更新されていてびっくりしました。
日本語って難しいですよね。
短い日記でも言いたいことが書けなかったりします。
マロニエさんはたくさん本を読んで、書いて、歌って(笑)・・
センスもあるんでしょうけれど、毎日の更新を拝見するたびに頭がさがります。
英語がペラペラ喋れる薬や、
日本語がスラスラ書ける薬があったら買うのにな〜〜。
という私には、努力が一番必要のようです。
Posted by noobooboo at 2007年09月16日 09:08
おはようございます。
マロニエさんの記憶力にいつも感心してます。
加えて大好きな向田邦子さんばりの表現力。
記憶を紡いでいく過程に惹かれます。
日本語って難しいけれどやはり好きです。

私の場合、都合の悪い事はどんどん記憶から消えていく
『ものわすれ力』が日々高まっているのですが
やってしまったあんなことやこんなこと
みんな覚えてたら恥ずかしくてとてもとてもなことが多すぎて
これも生きていく為の必要な才能なんだと思ってます。

いつか何かお書きになって出版されたあかつきには
必ず購入しますからね〜!
Posted by ふくわうち at 2007年09月16日 09:38
マロニエのこみちさん、こんばんは。
文中のお言葉をお借りすると
私は「道理に生きたい人で、もう一人の私は感情に生きたい人
私は、自分の淋しさが、酒や女で癒されるほど
浅い淋しさではないと思いたがっている故に、
酒や女に走ることはなかったが
もう一人の私はそういうことを知っていながら、
やっぱりそういうものに走り、そういうものによって、
自分の淋しさを麻痺させようとし、更に深刻なものとなって
更にそれらのものの中にのめりこんで行きたいと憧れるタイプの人」
そんな気持ちがあるのです(笑)

Posted by sekisindho at 2007年09月17日 00:30
nooboobooさん

おはようございます
そうですか?
nooboobooさんのお使いになる言葉、文章は、とても綺麗で
感受性が豊かだと私はいつも思っています
私の英語は、ディッスイザペン・クラスなんですよ(笑
でも、外国に行ったときは、単語を並べたブロークンイングリッシュと度胸で
なんとか乗り切っていましたが・・(笑
nooboobooさんは、今しかできないことを、引き続き色々とチャレンジしてみてくださいね
こんな経験ができる人って、そうそうにはいないですよ^^
私など羨ましいです
頑張ってくださいね♪
ありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月17日 05:35
ふくわうちさん

おはようございます
私はこのところ、『いまさっき』のことをよく思い出せなくなっています
なんで、今、ここに来たのか?
何がしたかったのか?
しばらくぼ〜〜っとしていることがよくあります(涙
そのかわりに昔のことはよく覚えているんですよね
まちがいなく完璧な加齢性健忘症の始まりですね(汗
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月17日 05:39
sekisindhoさん

おはようございます
はい、その思い、よく理解できました
人生一度きりなのですから、今からでも遅くはないです
後悔しないために、一度くらいは壊れてみましょう(笑
楽しいかもしれませんよ(笑
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月17日 05:42
安倍首相の「美しい日本」は散々なことになってしまいましたが、
今日はマロニエさんの「美しい日本」ですね。
こちらは読めば分りそうで、安心できます。

また、お千代さんが出てきました。
安倍さんの奥様が千代さんという名前だったら、
歴史が変わっていたかも・・・(笑)
Posted by capucino at 2007年09月17日 23:00
>筑摩書房の【現代日本文学全集】

おそらく、わたしが読んでいるものと同じか、同じ系統の
ものではないかと、少し、嬉しくなりました。
わたしは、いま34の志賀直哉を読み返しているところです。
鈴木三重吉は記憶には残っていないので(29にありました)
次の機会に再度、読み直してみようと思いました。

>【マルセリーノの歌】

汚れなき悪戯のテーマ曲でよろしいでしょうか?
この映画をみたとき、自分の子供に重ね合わせ
涙が溢れ出てきてしょうがなかったです。
天に召されるのがいいことなのか???
日本人にはよくわかりませんが、いい映画でした。

「美しい日本」は、街並み、山河、四季・・・
いろいろとありますが、わたしにとっては内面的で
抽象的ですが、「恥」「公」に象徴されるような
日本人がかつては美徳としていた心の持ちようです。
Posted by dawase86 at 2007年09月17日 23:56
capucinoさん

こんばんは♪
>散々なことになってしまいましたが
絵に描いた餅・・こんな言葉が浮かんできました(涙
>また、お千代さんが出てきました。
大正元年以降、5年間連続で、一位〜5位の間にいた名前ですから
仕方がありませんね
このころ、男の子ばかり授かっていた曽祖父が、命名したのですから
よほど女の子が欲しかったんでしょうね(笑
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月18日 22:39
dawase86さん

こんばんは
>(29にありました)
お!うれしいですね♪
ぜひぜひ読んでみて下さい♪
志賀直哉もいいですね
私もこの時代の頃の日本文学が大好きです!

>汚れなき悪戯のテーマ曲でよろしいでしょうか?
おっしゃるとおり♪
私も、これは泣けます
号泣してしまいます
この年頃の男の子って、なんでこんなに可愛いのでしょう・・・
歌は中学時代?に音楽の授業で習いましたが
こんなに綺麗な曲があったのかと感動しました(涙

>「恥」「公」に象徴されるような
日本人がかつては美徳としていた心の持ちようです。
本当ですね
「礼節」と言う言葉なども、もやは死語なのでしょうか(涙
いつもありがとうございます!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年09月18日 22:45
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