2008年09月12日

「ある素敵な女性のこと」

パラリンピックが開催されています
選手の方々の能力の素晴らしさはいうに及ばず
いつも感心してしまうのが、
選手の方をサポートしている装具の性能、
装具士の方々の技術の素晴らしさです
本当にあの進化たるやすごいものですね・・

競技を観ていると、私はいつも、一人の女性を思い出します
私よりも二歳年下でしたが、卒業した専門学校が同じで、
どうやら一年先輩だったようです
彼女の右手は肘から下が肌色の義手でした

出会ったのは私が初めてアパレルメーカーに就職したとき
もう、四半世紀も前のことですが・・・
私は退職されるその方の代わりのデザイナーとして入社したのです
二週間足らずの引継ぎ期間、毎日一緒に行動し、
私は彼女から本当に色々なことを教えて頂きました

第一印象は、明朗で聡明な細身の美人、ストレートの長い黒髪、
当時流行し、そのアパレルでもよくコピーをしていた
ピンクハウスの白いフリルのブラウスがとてもよく似合っていました

そこは京都のブラウス専門メーカーで、
経理をかねた社長、営業が2〜3人、企画はたった1人という
一度経営破たんをした後、縮小再建した小さな会社でした
デザイン、パターン、生産のための職出しという全ての工程を
デザイナー1人が担当しなくてはならなかったのですが、
右も左もわからない私に、アパレルの仕事がどんなものなのか
教えてくれたのは彼女でした

入社し、数日経った頃、私達は同じボディー(トルソー)に向かい
ブラウスの立体裁断をしていたのです
ここをこうして・・と、器用に左手でマチ針を打ち
ボディーを支える右手にふと目をやったとき・・・
私は思わず、息を呑みました
当時はまだ今のように義手の性能もよくなかったのだと思います
その手はかろうじて目立たない肌色でしたが、マネキンと同じ
動かない、抑える機能しかないような、形だけのものでした

驚いたのは、手のことそれ自体よりも
その数日、自分自身が、全くそのことに気づかなかったことです
それ程に彼女は、なんでも自分ひとりで難なくこなし、
そして誰よりも明るかった・・・
大好きなピンクハウスのコピーブラウスのコストを抑え
そして美しい製品に仕上げることに、何よりも情熱を持ち
楽しんで仕事をしていることがよくわかりました
明るくて美しい一人の健康な女性だと思っていたのです

義手に気づいた私のほんの一瞬の
止まった微妙な時間と空気を変えてくれたのも、
彼女の明るい声でした

彼女は退職し、同じようなピンクハウス系の服が得意な
重衣料なども扱うもう少し大きな会社に転職し
私は彼女の仕事を引き継ぎましたが、
何といっても初めてのメーカーでの仕事
それも優秀な彼女の後の・・・
そして、社員の誰からも信頼され、愛されていた彼女の・・・

私の荷はかなり重いものでしたが、彼女に少しでも近づけるように、
あの明るさや熱心さや強さを学べるように・・
ただそれだけを目標に頑張ったように思います

あるとき、仕事の後、職場の皆で食事に行ったとき
『やはり、●●さんを選んで正解だったよ』と
私を元気付けるためか、営業さんの一人が言ってくださいました

メーカーの仕事は初めてだから、どうしようかと思ったけれど
Yさんが、●●さんのことを気に入ってさぁ

『あのコンテストにたくさん入賞していたエクボの人がいい』

と強くプッシュしたので、その一言で決めたんだよ・・と
そのとき私は初めてその経緯を知りました
Yさんとは、もちろん彼女のことです

初めての面接試験で、もし落ちていたら・・・
私はきっと、学校を意に反して卒業したときからの
大きなコンプレックスを拭うことができなかったように思えます
お世辞であっても、私でよかったと言ってくださったように
私もまた、メーカーでの初めての先輩が、Yさんでよかったと
心から思い感謝しました

あれから同じ業界にいながら、一度も会うことはなく、
どんな人生を歩まれているのかも知らないけれど・・・

Yさんは、その後も元気で活躍し、結婚し、
もしかしたら可愛い女の子の素敵なママになって、
大好きなフリルの服を着せてあげたりしているかしらと・・・
入社したこのシーズンになるたびに、
そしてハンディを持っていても前向きに頑張る人を目にするたびに
今でも時々思い出します・・・



posted by マロニエのこみち・・・。 at 19:02| Comment(12) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
もう10年ぐらい前、バイオリニストの五嶋みどりさんのレクチャーコンサートを聴きに行きました。まだ小学1年生ぐらいの子から、高校生まで6人ぐらいが多数のテープ審査から選ばれて、当日課題曲を弾いていました。(もちろんすごーい難しい曲)。で、その時にでていた子供たちが皆現在○○コンクールで優勝したり、コンサートマスターになっていたりしています。名前を書けば「あ、知ってる」っていう人もいるかもしれません。
見る人が見ると「分かる」才能なのだと思います。選ぶ方も、選ばれる方も、才能があるのですよ。
 そんな才能のある彼女(Yさん)の前には手の事など些細なことだったのかもしれないし、些細なことにしてしまえる程、自分に対して自信があったのかもしれませんね。もちろん、それだけの努力をされたのでしょうが、一流になる人には努力は付きものですしね。

Posted by トマト at 2008年09月12日 22:46
とてもいいお話でした。
そしてマロニエさんもまた
後輩たち、同僚、顧客に
素敵な思い出を残してきたことでしょう。
Posted by capucino at 2008年09月12日 22:52
なにかしらのハンディーを持った方が、いわゆる五体満足な者より
遥かに素晴らしい能力を発揮することは、まぎれもない事実です。
そこには、並々ならぬ御本人の強い意志と夢とが突き動かした結果ということもあるでしょうし、あるいは、いわゆる普通の生活の中では、掻き消されている人の潜在能力が、逆にハンディーがあることによって目覚める、ということもあるかもしれません。
日常生活の中で実際に人が使う能力は全体の極わずかで、後は眠っているというのですから、、、。眠っている自分を叩き起こさねば(野生が出て来たりして)。そう考えるとまだまだ何か出来そうな気がしてきます。
Posted by ogon at 2008年09月13日 00:40
採用こそ縁ですね。マロニエのこみち・・・。さまとYさまも
縁あってのことと思います。素晴らしい縁を天が与えてくれたと
感謝ですね。

私事ですが、この2月に採用した部下が非常に頑張ってくれて
とても嬉しいのです。と言うのも、くだらない話ですが
大手商社出身の社長は学歴至上主義者。国立大学以外採用しないと
言って憚りません。ですから、飲みに行きますと、「まず僕から
クビにしないといけませんね」と嫌味を言っているのですが・・・
その新規採用者は高卒で苦労しながら社会人経験をした人間です。
社長が反対するのを押し切って採用して、最初は社長の見る目も
厳しかったのですが、結果を残すにつれ「俺が採用したから」と
社長が手のひら返しの発言をするぐらい成長しました。
本当に嬉しいことです。わたしが彼を採用したのもはっきりとした
根拠があったわけではありません。まさに縁の世界です。

Posted by dawase86 at 2008年09月13日 01:09
トマトさん

おはようございます
文面ではわかりづらいと思いますが、Yさんはそういう強さを持った人ではありませんでした
きっとガラス細工のように繊細な人だったと思います
だからこそ、見えないところでどれだけ努力をしているのかがよくわかりました
だって当時、まだ22歳の乙女でしたもの
手のことを気にしないはずはないだろうし、細い体の中に秘めた負けじ魂のものを感じました
そういうひたむきさは、人の心を打つのですね
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月14日 10:29
capucinoさん

おはようございます♪
きれいにまとめて頂いてありがとうございます♪
でも私はそんなことはありませんよ
過去を振り返ると、反省することばかりです(^^;
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月14日 10:31
ogonさん

おはようございます♪
>日常生活の中で実際に人が使う能力は全体の極わずかで、後は眠っているというのですから、、、。
なるほど・・興味深いお話ですね!
確かにまだまだできそうな部分と、いっぱいいっぱいな気持ちが交錯しています(笑
>眠っている自分を叩き起こさねば(野生が出て来たりして)。
確かに・・(笑
私の場合は、叩くと不の部分が出てきたりして・・(^^;
でも、これで終わりと言うのは甘えですよね
もっともっと頑張りたいと思います!
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月14日 10:36
dawase86さん

おはようございます♪
素敵なお話ですね!
dawase86さんの勘が素晴らしかったのでしょう
確かに人は、リスクを負ってまで自分のことを認めてくださる人には
どんなことがあっても期待に沿えるよう努力して、恩返しをしたいと思うものだと思いますよ
私も過去にそういう人がいました
そしてその方の栄転が引き金になり、独立することを決めました
きっとその方もそんな心境なのではないでしょうか
とっても素敵なご関係だと思います
殺伐とした社会生活の中で、こういうことがあると温かくなりますね^^
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月14日 10:41
>だからこそ、見えないところでどれだけ努力をしているのかがよくわかりました
最近の起伏の変化の原因がひとつこれかな?
子供を持つと色んな方との交流も増えて、
色んなハンデを持った方の表情の明るさの裏側の努力が
見える年になってしまったのですよね。
こんな方と出会った時に、自分の過去の愚かさにめっさ後悔します。
後悔先に立たずですね。
Posted by ひまわり at 2008年09月15日 00:50
マロニエさま、お久し振りです。

毎日拝見しています・・・!!、♪、(^^)・・・いろいろ。

十五夜のお月様いかがでしたか?
やっとすごしやすくなりましたね♪
仕事がしやすくて嬉しくなります。
汗で布地がまとわり付くこともなくなったのではありませんか?
それとも大汗を掻いて重労働でしょうか。
こちらも皮の準備が出来、新作1号が完成しました。
宣伝用の撮影が10月末になり少し慌てておりますが、頑張ります!
2日にメールを致しましたが、届かなかった?
今週は何かいいことあるかな?頑張りましょうね。


Posted by とうもろこしのpiro at 2008年09月15日 10:50
ひまわりさん

おはようございます
ご本人の裏側の努力もあると思いますが
それを支える家族や周囲の人は意外に明るいことと思います
それは最悪のことも予測しつつ、幸せな今があるから・・
生きているだけでそれだけ幸せなことかを実感しているからです
人の幸せと言うのは、本当に身近なところにあるのだと思っています
ありがとうございます
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月16日 09:04
とうもろこしのpiro さん

うれしいです
ありがとうございます♪
PCの移動やらなにやら・・
日常にまみれてお返事うっかりしておりました
もちろんお心がありがたくて心にしみましたよ^^
第一作、どんな作品でしょう
本当にこれから秋も深まり、いい季節になりますね♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2008年09月16日 09:06
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