2009年02月25日

「極私的なレトロ東京物語…有楽町」

東京駅に到着し丸の内線に乗り換え有楽町で降りる

有楽町は新しいビルが建って、随分変わったと訊いていたけれど
もとよりこの町の姿に詳しいわけではない
メトロに乗り換えるために外に出たときの、煤けたガード下の風情や
その脇で、黙々と客の靴を磨く小父さん達の姿からは
まだ懐かしい昭和の匂いがした

メトロに通じる真新しいビルに入ってみると
雑然とした小さな洋品店や、流行らないセール会場
あるいは身内しか立ち寄らないような雰囲気の
日曜画家の絵画展などがひっそりと催されていて
新しいビルの、癒しのイメージ作りのために
通路に面して小奇麗に並べられた数々のガラスの水槽の
モダンな雰囲気がまるで台無しになっている様は
いかにも大都市の雑居ビルの中に共通して漂う
統一性のない怪しげな匂いがして、これも面白く私の目には映った

携帯電話を見ると、時刻は11時半
早めの昼食をとるために、飲食店の並んでいる通路に入った
何を食べたいわけでもなく、ぼんやりと歩いていると
『・・・おふくろの味・定食650円
・豚のしょうが焼き、カレイの煮付け、モツ煮込み等々・・・』

カウンターと、テーブル2、3席程度の小さな店である
昼前のせいか、まだ客も少なかった
カウンターの一番手前に、半袖のスモック型の制服を着た
中年女性の先客が座っていた
私はその隣に腰を下ろし、生姜焼き定食を頼む

カウンターの前には、魚などを並べるまだ空のガラスケース
そしてその奥の壁面の棚には、
名前の書かれた焼酎の黒い瓶が並んでいる
昼は定食屋、そして夜には、居酒屋に変わるのだろう
焼酎の上の段には手作りの目隠しのカーテンがかけられ
わずかな隙間から、雑然と置かれた箱や書類の束が見えている

定食が運ばれるまでの間、店内のメニュー書きや
そんな店の様子をそれとなく観察していると
隣の女性客と、店主らしいカウンターの中の女性が話し出した
女性客は、多分、このビルの中で働いている常連客だろう

朝は駅まで自転車で来るのだけれど、今日は雨で大変だった
家から駅までは坂なの
そうなの 私は朝6時には築地に行って、仕入れをするのよ
自転車には乗らないわ・・・

そんな他愛のない話だけれど、この人たちは多分
週に何度かはこんな話をし、同じビルの中で働き
仕事を終えると、東京の空の下の
どこかの街にある、いつもの家へ帰っていくのだろう

家族はいるのだろうか
いるとしたら、何人?
もしかしたら、一人暮らしかもしれない
あるいは、同じような境遇の女性二人で
住んでいたりするのかもしれない・・・
ここで働く前は、何をしていたのか
どこで生まれたのか
今、どうしてここにいるのか・・・

同じく、私がどこから来たのか、どうして今ここにいるのか
知っている人は誰もいない
たまたま今、こうして小さな店で
同じ御飯を食べている知らない人同士

そんな不思議な小さな空間
奇妙な思い、人恋しさ・・・
大都会でしか味わえない、このザワザワとするような感覚を
久しぶりに味わいながら前に置かれた定食に手を伸ばした
生姜焼きは、ふっくらとして美味しかった・・・



posted by マロニエのこみち・・・。 at 23:34| Comment(10) | TrackBack(0) | 小説風エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マロニエのこみちさん、お帰りなさい。
せっかくの東京も雨でしたけど、お忙しかったようですね。
お会いできなかったのは残念でしたけど、夢二はご覧になったようでよかったです^^
次回いらっしゃるときはぜひぜひ事前にご連絡ください。

有楽町駅の近辺はまだ昔の雰囲気が残されていますよね。
特にガードしたのお店には色濃いようです。

初めてのお店で一番当たり外れがないものは、生姜焼とカツ丼だと思っているのですけど「ふっくらとして美味しかった・・・」のはそのお店での雰囲気も含めてだったのでしょうね。

Posted by sekisindho at 2009年02月26日 00:36
面白い! です。 臨場感のある描写は絵と同じで活き活きしてますね!
私も会社の帰りに時々有楽町の駅で降りますが、伊東屋という文房具屋さんに直行がほとんどです。たまに並木通りを往復したり時計のあるピルを見に行くこともありますが、マロニエさんが書かれている靴磨きや新しいビルや小さな食堂や みんな「ちらっと」見て素通りしています。(ブランドショップは一杯ありますが、どうも興味が無くて、ちら も 見ないです(笑;))
駅周辺のごちゃごちゃ感は確かにまだ昭和の臭いを残していますね!
やっぱりちょっとお店に入ったり あちこち見たりというのは 男女の違いでしょうか。 なかなか目的以外の行動を取れない私です。
Posted by kei at 2009年02月26日 01:47
こんばんは。
有楽町にお越しになっていらっしゃったのですね。
わたしも商用でよく行きます。「昭和」と「平成」がぎこちなく
同居するような街ですが、最近は「平成」が幅を利かせていますね。

通勤電車の中で会う人々、居酒屋の隣の席の人々、同じビルに勤めて
顔は知っているけれども決して話すことはない人々・・・
ひとそれぞれの境遇、人生の歩みを勝手に想像しながら
一生の内で、知り合うことが出来る人は限られていつんだなと
寂しい気持ちになりますが、それだけに縁は大切なものだと
実感します。
Posted by dawase86 at 2009年02月26日 02:25
 会社に勤めていた頃は良く行った有楽町の今を知り、大変懐かしく思い出しました。
当時と比べると様変わりしているのでしょうが、マロニエのこみち・・・。さんの紀行を拝見しますと、当時の有楽町にタイムスリップした様に感じました。
ありがとうございました。
Posted by nori at 2009年02月26日 09:35
その場の雰囲気がそのまま伝わってくるような描写ですね。
馴染みの無い土地の食堂(レストランではなくて)に入って壁に貼ってある色褪せた品書きを眺め、客と亭主あるいは女将との日常的会話をぼんやりと聞きながら頼んだものが出てくるのを待っている旅人・・
そのようなことが遠い昔の貧乏学生旅行中にあったのではないか・・
拝読しながら当時に想いを馳せておりました。
Posted by Saas-Feeの風 at 2009年02月26日 10:18
sekisindhoさん

こんにちは♪
本当に残念でした
4月にも行く予定なのですが、多分、今回よりも時間が限られそうです(涙
街を歩きながら、せき様を始めとするブログで知り合った人たちが
今、どこかですれ違っているかもしれないな・・なんて思いながら歩いていました
やはり東京は活気があっていいです
生姜焼き、美味しかったです
でも、店の雰囲気が好きというよりは、期待していなかったけれど美味しかった・・
の方が正しいですね(笑
いつもお心遣いありがとうございます
ボチボチアロエの絵を(笑)描かせて頂こうかと思っておりますですよ^^
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2009年02月26日 18:26
kei さん

こんばんは♪
そうでしたか!
keiさんもお詳しい場所だったのですね^^
ネットのおかげで、関東にも知り合いがたくさん出来ました
仕事をしていた頃はよく行きましたが、今回は4年ぶりくらいです^^
私も普段のスーパーなどでの買物は、必要なものを紙に描いてさっさと済ませる方なんですよ^^;
あまりうろうろしていると、時間も勿体無し、
何よりも、必要ないものまで、つい買ってしまうんです(^^;
いつもありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2009年02月26日 18:29
dawase86さん

こんばんは
どこかにdawase86さんが歩いていらっしゃらないかなと
思いながら歩いておりましたよ^^
本当におっしゃるとおりですね
東京は広いし、人口も多いので、とりわけそのような気分が強くなりますね
あの地下の小さな店の空間・・・
なんとも言えず、物悲しいような思いと、昭和の匂いを感じました
たまに行くものいいものですね
いつもありがとうございます♪

Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2009年02月26日 18:33
noriさん

こんばんは♪
noriさんにも親しい街だったのですね
有楽町とか、烏森口とか、小説やエッセイで知る限り
サラリーマンの街・・のイメージなのですが
なんともいえない独特の雰囲気がありますね
東京は、街の名前を並べるだけで、絵や小説になる気がします
今回のシリーズも、小説風のエッセイにしてみました^^
お越しいただきまして、ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2009年02月26日 18:37
Saas-feeの風さん

こんばんは
そうです
おっしゃるとおり、まさしくその気分でした
学生時代の貧乏旅行といえば、今日の記事の後、
親戚のお姉さんが住んでいたアパートに一週間ほどお邪魔し
東京の街をぶらぶらしました
最後はお金がなくなって、鈍行で帰ってきました
若い頃しか出来ませんね^^;
いつもありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2009年02月26日 18:39
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