2011年10月14日

「いにしえの名画【挽歌】を観る」


『挽歌』でこのブログ内を検索すれば、色々と出てくると思うし、
ストーリーも検索すればわかるので、あえて説明はしないけれど、
毎年この時期になると読み直してみたくなり
それが始めて手にして以来、35年以上も続いていると言う
私の一番の愛読書・・というよりは、思い入れの深い一冊
近年、惜しくもお亡くなりになられた、原田康子さんの代表作である

この本が戦後まもなく発表されて一世を風靡し、ベストセラーとなり
続けて作られたこの映画が話題作になったということは当然知っていたが
思い入れの強い本ほど、
映画化されてがっかりすることは、かつて何度も経験したし、
実際にこの本もリアルタイムで何度も映画化、あるいはドラマ化されて
そのたびに、殆ど怒りに近いほど絶望し続けてきたので
最後の砦であるこの初代の作品だけは
あえて手をつけないようにしてきたのだった・・

でも、これ程までに愛した作品の映画を、
このまま観ないでいるのは、やはりおかしいのではないかと・・
ようやく入手に踏み切ったのだった・・・
さて、その映画版【挽歌】
1957年・松竹配給(製作:歌舞伎座)・監督 - 五所平之助
単純な自分がおかしいくらい、すっかり魅了されてしまった

画面はモノクロである
越路吹雪さんの、アメリカ映画のように華やかでエレガントな主題歌で始まる
原作に忠実な、戦後まもない釧路・・・
ジープが土埃を立てて走る廃墟の街に、ポツリポツリと建ち始めたビルや
主人公、兵藤怜子の恋人である建築家の桂木が設計するモダンな住宅、
霧に煙る白樺並木、珈琲の香り、温かい湯気の立つ居心地のよい喫茶店
哀愁を帯びたロシア民謡が流れる歌声喫茶や、洒落たカウンターバーなど
ストーリーを裏切らないドラマティックかつ
レトロ&ロマンティックな場面が舞台となる

そのモノクロの画面に時々アップで映し出される桂木夫人役である
高峰三枝子さんの、この世のものとも思えないほどの完璧な美しさ・・・
屈折した不良少女である主人公を、見事に演じきった久我美子さんの
繊細なアイロニーと苛立ちと、
流石に華族のご出身だけあって隠し切れない品の良さは
なし崩し的に衰退してゆく、ブルジョワジーの悲哀に満ちている
流石に、原作者の原田康子さんが、
強力にこの方を、プッシュしたと言われるだけあって素晴らしい
久我美子さんが、こんなに演技派だったとは、今の今まで知らなかった

虚無的な恋人桂木を演じた森雅之さんは、文句なしの、はまり役である
脇役に、若き日の石浜朗さん、渡辺文雄さん、他、
浦辺粂子さん、中村是好さん、斎藤達雄さん、高杉早苗さんと贅沢で
全体に漂うインテリジェンスが、単なる不倫映画のイメージを払拭している

衣装は森英恵さんが担当されているが
当時同じく流行っていたヘップバーンを意識され
久我さんの眉の形、髪型、服装にも反映されているが
ヘップバーンのサブリナパンツ程タイトでない極普通のスラックスと
ゆったりしたセーターや、シンプルなコートの下で
久我さんの華奢なシルエットが、敏捷しかも繊細に泳ぎ・・・
まさしく主人公怜子そのものである
音の効果も素晴らしく、先の主題曲、ロシア民謡に混ざり
ガスに煙る港の哀感漂う、ぼ〜〜〜っという霧笛の音がリアルで切ない

原作にも出てくる『お化け屋敷』のような怜子の家は
和洋折衷のレトロモダンで、インテリアも雰囲気も
まるで中原淳一さんのイラストそのもの・・泣けてきた

唯一残念だったのは、
怜子の父親の女友達が経営する【アイリス】という洋装店で、
怜子にシフォンベルベットのドレスを作らせなかったことである
あのシーンは、私が最も気にいっているところで
出来上がったそのドレスの上に、裾が10センチ以上も出るような、
アンバランスなレディメイドのコートを羽織り
毛糸の首巻をぐるぐる巻いて、
慣れない買ったばかりのスエードのパンプスを履き
イブの夜に出かけると言う、ドラマティックなシーンが無視されていた
また、医学生と不倫する桂木夫人の密会現場となった行きつけの喫茶店の
クリスマスの飾りつけシーンなど・・

このあたりは、男性の監督さんなので、乙女心がわからなかったのだろう
これらが入れば、映画そのものがもっと華やかになり
モノクロの画面が更に色づくだろうが・・・
もしかしたら、あえてシックにするために、
監督が、意図的に外したのかもしれないけれど・・・
それらを含め、私がこの映画につける点数は、95点といったところだろうか
もちろん、その場面が入っていたら、
間違いなく100点満点以上の完璧な出来になったのだけれど・・・

もちろんどんな名画でも、原作を映画化するには、難しい部分が多々あって
小説【挽歌】の魅力の半分は、原田康子さんの文体にあると私は思う
ストーリーだけを追っていけば、何だこれは?と
映画に対しての反論があるのは否めないが
それでも、それを補うほどの完成度で、別物として鑑賞すれば
原作に値する素晴らしさがこの作品にはあると思った・・

そこそこ高価な買物ではあったけれど、私の大切な宝物が増えてしまった
昭和の名作の一つに、この作品が選ばれることは今だなく、DVDもなく、
プレミアの付いた異様に高価で、劣化覚悟の中古のVHSでしか
手に入らないという現実が残念でならない

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最後に余談ですが・・・
平成の今、上演するとすれば配役は誰になるのか・・
主人公、怜子は、黒木メイサ、桂木は、あれこれ候補はあっても
結局、役所広司さんに委ねるしかないのだろうか・・何でも上手だもんね
問題は、桂木夫人・・
初代、挽歌の頃は、次点でいくらでも候補は見つかったはずである
でも、今は思い浮かばない・・・
黒木瞳は絶対違う、壇れい・・最も有力候補、でも不満足・・
原田三枝子さんでは線が強いし、鈴木京香さんでもない
松坂慶子さんは、明るすぎるし、お母さんになりすぎた・・・嗚呼;

この上なく美しく、菩薩的で、しかも危い魅力のある女優さん
高峰三枝子さん程の完成度の高さは望めないとしても・・・
何方か見つかりませんか?
こんな魅力的な雰囲気のある女優さんがいなくなった平成の世は淋しい・・



posted by マロニエのこみち・・・。 at 11:24| Comment(6) | TrackBack(0) | 懐かしのドラマ・映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
記事を拝見して、映画を見たくなりました。
森雅之さん、大のお気に入り俳優さんです。
ああいう自然体のインテリ役者さんがいなく
なりましたね。森さんの「こころ」(夏目漱石)も
名作です。

d〇〇〇〇e8〇改めinter90
Posted by inter90 at 2011年10月15日 01:12
inter90さん

こんにちは♪
ニューHNでのコメント、ありがとうございます♪(^^ゝ
そう言って頂けてうれしいです〜
この頃の俳優さん、女優さんって、独特の雰囲気がありますね
やはり映画俳優っていう響きにぴったりで・・・
風格がありますよね^^

>森さんの「こころ」(夏目漱石)も
名作です。
そんなのですかっ
それはとても興味深いです!
ぜひとも観てみたいものです!
T岡さんではありませんが、確かにBSも、何でもかんでも隣国の番組に頼るのではなく
日本のあまり上映されないこのような名作を流して頂きたいものですね!
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2011年10月15日 16:45
【挽歌】  期待です
Posted by 耳をすませば 動画 at 2011年11月23日 14:44
耳をすませば動画さん

はい
これ、なかなかいい映画でした^^
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2011年12月03日 00:54
久我美子さん ウェーブ 動画で 調べました。
今 画像で 若い頃の写真を 中心に 見ています
浅川マキ 山河あり 動画で 聞いています。独特ですね。
映画同好会(名前検討中
プログ 越路吹雪で 検索中です。動画で 愛の賛歌を 鑑賞していました。(映像がかなり古いですね。)越路さん 歌 上手いですね 最高です。音楽同好会(名前検討中 越路吹雪を語る会
Posted by 村石太レディ&また逢う日まで at 2012年02月07日 22:08
村石太レディ&また逢う日までさん

こんにちは
初コメントありがとうございます♪
記事にした動画、観て下さったそうでありがとうございます
昭和の歌やドラマが好きで、ときどき記事にしています
またよかったらご訪問下さいませ
ありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2012年02月11日 15:49
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