2012年01月11日

「素敵なマダムのいた店」

年末年始、何度か祇園の四条通を歩いたが、
その度に残念でならなかったのが、ある喫茶店の閉店の知らせだった

096.JPG

今、白い紙が貼られている少し高い位置にある3つの小窓には
いつも各々2個ずつ程、等間隔に黄色い檸檬がそっと飾られていた
気をつけなければ見過ごしてしまいそうなひっそりとした店だけれど

「太陽のしづく 新鮮純果汁とコーヒーの心をあなたの生命にどうぞ」

という個性的な言葉で綴られたプレートと、小さな木のドアと、
同じく木片に値段も書かれた手書きのメニューと、
店にそぐわないような気もする不思議な店名、
壁面も、焦茶色のレトロな木製で、
コントラストよく黄色の檸檬の並ぶ様に惹かれ
秘かに憧れにも似た期待を、通るたびに感じたものだった

一番最初、勇気を出して入ったのはいつだったのか覚えていない
京都に住んで30年以上経つ今、
多分、もう25年か、30年くらいは経つのだろうと思う
最初は、果物屋さんを併設していて、そこの果物で
ジュースを作っていたように覚えている

(かつては、京都市内のあちこちに大小多様な
こういうパーラーやジュースを出す店があったものだけれど
今は、殆どが閉まってしまった)

一度入ったからと、常連になるにはちょっと勇気のいる店で
何故かと言えば、後ろに小さな一つのテーブルと、
カウンターだけの7人も座れば満席になるくらいの狭い店内に
多分、置屋の女主人や、天麩羅屋や、履物屋のご主人といった
祇園界隈の華やかな住人が、珈琲片手にタバコをふかし、
世間話に花を咲かせていたからである

カウンターの中には、ひっつめ髪に黒いタートルネック
タイトなボトムにカフェエプロンを重ねた
化粧気はないのにたいそう美しい、初老のマダムがいらした
いつもスリムな体をピンと伸ばし、全く無駄のない美しい所作で
クルクルと立ち振る舞い、スピーディに喫茶の仕事をこなしながら
付かず離れず、常連客の相手もし・・・

マダムの雰囲気と、檸檬と、レトロなグラスやマッチやナフキンのデザインと
小綺麗に整頓された店内全てがあまりにもマッチしていて
一体この方は、どういう素性の方なのだろう
元は名のある芸妓や、女優だったとしても不思議ではないが
媚はなく、ドライでクールでさえありながら、
一見の客を否定する雰囲気もなく・・・

今、不思議にお顔が思い出せないのだけれど
少し前に観たあの【挽歌】の映画の中の
久我美子さんに雰囲気はそっくりだった
でも、久我さんよりも、目鼻立ちが美しかったような気もする
何故思い出せないかというと、じっと見るのも憚られたせいだ

最後に入ったときは、あの、兄弟の鞄屋さんの再開の日だった
同じく常連たちが、その店の話をしていた
初夏だったのか、アイスコーヒーを注文したが
あれが最後になるのなら、フレッシュジュースやフルーツサンド・・
できれば、シェーカーで作って下さるという
檸檬ジュースを注文すればよかったと悔やまれる

こういう商売のプロの方は、余程印象が薄くない限りは客の顔を覚えていて
多分向こうもそれとなく、いつ来た客だったかと思い出しているだろうし
こちらも、そんな雰囲気を感じながら、緊張を隠しつつ平静を装い
出されたものを行儀よく頂きながら、
失礼にならないように、マダムの美しい所作を眺める
眺めるのに気を使わなくて良いのは後姿だけだから
あまりお顔を覚えていないのだ

〆られてしまった店には、張り紙がしてあった
閉店を告げる張り紙の横には、新年を祝う紙が・・
このさりげなさも、あの素敵なマダムにぴったりで
八坂さんへの初詣でひっきりない往来で、何とかカメラに収めることが出来た

095.JPG

時々、咳をされていて、少し前は休業の張り紙があったので
閉店の理由が客の煙草の副流煙による悪い病気などではないことを祈りたい

喫茶や料理店に限らず、煙草屋さん、花屋さんなどの商店でも
京都には、美しくて素敵なマダムが切り盛りされる
小粋な店がたくさんあって、私などでもそんなマダムを
軽く7人ほどは揚げられるのだから
そんな美人を探すだけでも、京都の街歩きは楽しいかもしれない



posted by マロニエのこみち・・・。 at 12:37| Comment(6) | TrackBack(0) | 京都のお店 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マロニエのこみちさん、こんにちは。
近頃の東京で、こんなお店に巡り会うことは
どうもなさそうです。
有るのかも知れないですけど、やはりスタバやタリーズやプロント、エクセルシオールなど、お気楽で少々今風のスマートなお店が中心になってしまいましたね。
新宿西口のほんの一角に、恋文横町という昔ながらの飲み屋横町があり、その入り口のところにちょっとレトロな雰囲気で、美味しい本格的なコーヒーと素敵なコーヒーカップのあるお店が有るのですけど、何しろ一杯のコーヒーが馬鹿高く、そうそう足を運べないのが玉に瑕です^^
Posted by sekishindho at 2012年01月12日 00:12
素敵なマダムのお店に、私もご一緒に出かけたようなときめいた気持ちになりました。


世の中には、本当に美しい方がいらっしゃいますよね。

その方は見つめられている事にきっと気付かれていたと思います。

Posted by wave at 2012年01月12日 14:35
sekishindho さん

こんにちは♪
多分、このママさんは、sekishindhoさまの直球ストライクでは?と想像しながら
この記事を書いていたのですが如何でしょう(笑
京都も、だんだん喫茶店がなくなってきて、久しぶりに行くと
今風の外資系のカフェなどに変わっていて驚かされます;
ただ、昔からの喫茶店は、喫煙できるところが多いので
それだけは辟易で、私もついついスタバなどを利用することが多くなってしまいました

>美味しい本格的なコーヒーと素敵なコーヒーカップのあるお店
こういうお店、いいですね
他にも、素敵なママさんの店で、お客様の雰囲気に合わせて、
カップを選んでくださるところがあるのですが
本当は、こういう店がなくならないで欲しいです
いつもありがとうございます♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2012年01月13日 11:40
waveさん

こんにちは♪
流石乙女なwave様♪
この感じ、わかって頂けてうれしいです
気づかれているでしょうね^^
そして、こんなことは、日常茶飯事で、そんな緊張感も、
更にこの方を美しくされているんだろうな〜って思います
それにしても、残念です;
最後になりましたが、今年もどうぞよろしく御願い致します♪
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2012年01月13日 11:48
今晩は。

久しぶりに、マロニエさんの比較的長いエッセイを拝見しました。
書かれている喫茶店の閉鎖にまつわる想い。

引き込まれるように読み進めました。

流石、マロニエさんには筆が立つ。
今更、ながら感服しました。
心が豊かで、感受性が強いから、喫茶店の大きな絵が、自然に描かれていたのでしょう。

京都の街は昔の京都が今も生きているのですね。
かって、マロニエさんが書かれた街の風情からも感じました。

私の住む新開地、多摩ニュータウンにも個性のある落ち着いた店もできかけていますが、多くはチェーン店に押されて、客足が伸びません。

私が3年通ったそごうの中にあった「紅茶専門店」はそごうの閉鎖で、閉鎖とともに消えました。
Posted by ijin at 2012年01月13日 22:26
ijinさん

こんにちは♪
いつもありがとうございます!
この頃、時間の無駄が多いせいか、時間もなくて
ゆっくりエッセイ風の記事を書く気持ちの余裕もなかったので
ijinさんにそう言って頂けてうれしいです
多摩ニュータウンにまだ行ったことがありませんが
お写真や先日のTVで拝見した感じ、モダンで風通しのよさそうなお洒落な街ですね
東京には物や店が多すぎて、継続させることはたいへんだろうと思います
紅茶専門店、そういえば、前に伺いましたね!
閉鎖は寂しいですね
思い入れのある店ならなおさら・・・
残念でしたね・・
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2012年01月14日 16:36
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