2012年04月22日

【黒髪―他二篇  近松 秋江】

私が伏見区に移り、すぐに来て下さったお客様なので
お付き合いとしては10年以上になるのだけれど
お好きなシャツのオーダーを年に1、2度程賜るくらいで、
あまり個人的なお話をしたことはなかった

しかしながら、2年ほどブランクが空いた後
今のあとりえにお越し下さった一昨年くらいから
ここの家では普段リビングとしても使っている部屋にお通しするため
壁に並んでいる棚の本なども見ることができるので、
・・・あら・・私と趣味が似ているかも・・なんていう話から
読んだ本の情報交換をしたり、CDやビデオを貸し借りしたり
実は本を書かれていたということもわかって
その御本を頂戴したりするようなお付き合いが始まった
これは、その方に教えて頂いて面白そうなので古本を購入し、
昨年の秋に読んだ作品である・・・

この記事のタイトルで検索すると、情痴文学と真っ先に出てくる
情痴と聞けば、いわゆる濡れ場的な描写などが
出てくるのかと想像してしまうのだけれど、そういう箇所は一つもない
ただ、小説家の男が、一方的に好きになった祇園の芸妓のことを
ああでもない、こうでもないと一人で思い悩み
通えないときにはお金を送り、
いつかは自分ひとりのものになるのではないかと夢を見続けた挙句
また体よく振られて悶々とし、ちょっとした事件なども起こしながら
結局は埒明かないという読んでいるこちらまでが、
イライラ悶々としてしまうという、とても不思議な小説なのである

これは、新書では、黒髪だけで、他二編が編集されていないので
黒髪だけ読んだのでは埒が明かないと思う
全部読んだからといって、埒明くわけでもないだけれど・・(笑

しかしながら、感心してしまったのは、この『女』の京言葉を、
作者が何ともうまく描写しているところなのである
この本が示すように、本当に通い詰めて、女の一言一句を聞き漏らさずに
耳と脳に収めたに違いない
昨今ならば、いかに京都ネイティブでも、ここまで古風な京言葉を
話せる中高年、若者はいないだろうと思うからだ
そして、暗く湿っぽい独特の祇園町の佇まい
それも古の明治の頃の・・・が描かれていることで
経験しがたいような、独特の空気を感じることができる
ディープな京都を知りたい方には、ぜひともお勧めしたい小説である
この本が、好きかどうかは別として・・・(笑

ところで、このお客様と、読後感をメールで話しているときに
この後の展開はどうしたいかという話題になった
私は迷わず、この男の願いを、女がいよいよ断りきれなくなって
二人で駆け落ちでもしたものの、不慮の事故にあってしまい女は死ぬ
さて、遺された男は、いつまでもこのことを後悔し続け
女が死んでからも、悶々と思い悩めばいいのだと言った

・・・中田さんて、流石に想像力が逞しいですね・・・
とお褒めの言葉(?)を頂いたが、
いつまでも断るでもなく男から情けを受け続けても何とも思わない
馬鹿で情のない女は死ねばいいし
独占欲だけで迷惑も顧みないどうしようもない哀れな男は
罪を犯してその罪を一生背負い、それでも尚、女を思い続けていればいいのだ
それでもこの男は、多分幸福に違いない・・・というのが
この話で悶々と暗い情緒を楽しませて頂いた一読者である私の感想なのである

これという事件もないのに、延々と読者を引っ張ってくる
文章力、表現力は、凄まじいものがあると思う
多分、この女も、このしつこさに、断れ切れなかったのかもしれない
そう思うと、殺してしまうのも不憫な気がするが・・・

そしてまた、新書で見ると、この作家
他にも妻に逃げられた作家のことを書いているようである
これも間違いなく自身のことだろう・・・
本当に目出度いというのか、不幸というのか、幸福なのか・・・
懲りない男がいたものである
しかしながら、これは間違いなく名作(迷作)だと思う


posted by マロニエのこみち・・・。 at 19:13| Comment(2) | TrackBack(0) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マロニエのこみちさん、こんにちは。
>小説家の男
心情的にといいますか、傾向的にはこの男の気持ち
少々理解できますよ。
ただ
>・・・悶々と思い悩めばいいのだ
とマロニエさんに言われてしまったら、これは辛いことに
なってしまいますよ(笑
Posted by sekishindho at 2012年04月22日 23:48
sekishindhoさん

こんにちは
いつもありがとうございます♪

>・・・悶々と思い悩めばいいのだ
なんて、確かにひどい言い方ですよね(笑
申し訳ございません(^^;
でも、この男、本当に懲りないんですよ
人を信じすぎて疑うことを知らないというか・・
まあ、誰しも、好きな相手のことは、都合のいいように
考えたくなるのかもしれません
ストーカー気質は私も持っていると思うのですが(笑
もう長い間、そういう心情になるような状況に
なっていないのが残念でございますよ(笑
Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2012年04月23日 10:49
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